月の輝く夜は淋しくて 8
2008年 06月 15日
飛び続けている。
太陽の最後の光が山の端に溶けて、星が淡く姿を見せる頃、宿りを求めて矢のように落ちていくが、朝には今日の距離を測る。
ただ飛ぶ。飛ぶことを考える。
新鮮で単純明快なこの心境は希望に似ている。
少しずつ移りいく景色。空を張る電線、緑の縞になって伸びた畑、三角に積まれた、積み木のような廃車、稲穂は風になびいて、大地の色を変え、交差した道路はそこに飾られたリボンのようだ。
こんな風に、小さな事件を過ぎてきたのだと、一つ一つを飛び越していく。
飛び続ける。
あぜ道に沿った赤い花が、色を薄め、溶け込んで埋もれていくまで、高く高く。
すっかり平板な風景に、川だけが生き生きとうねって、一筋の糸のように枯れた地を山裾に縫い付ける。
この圧倒的な空間は、至りつく天を持たない。
例え一つの角度を選び取っても、円環の宇宙はどこまでもわたしを受け入れる。その際限のなさを頼って今を飛ぶ。
時もまた果てない。
伸び続ける空間と時がわたしに属し、わたしは常に中心にある。
のっぺらぼうの世界よ。そこに裂け目を刻み、今日の距離を抉り取って印をつけよう。わたしの命はわたしのものだ。
妻でなく、母でもない。ひとでなく、鳥でさえない。なにものでなくてもかまわない。
自由だ。
ため息が漏れ、相応の悲哀がこみあげてくる。
太陽の最後の光が山の端に溶けて、星が淡く姿を見せる頃、宿りを求めて矢のように落ちていくが、朝には今日の距離を測る。
ただ飛ぶ。飛ぶことを考える。
新鮮で単純明快なこの心境は希望に似ている。
少しずつ移りいく景色。空を張る電線、緑の縞になって伸びた畑、三角に積まれた、積み木のような廃車、稲穂は風になびいて、大地の色を変え、交差した道路はそこに飾られたリボンのようだ。
こんな風に、小さな事件を過ぎてきたのだと、一つ一つを飛び越していく。
飛び続ける。
あぜ道に沿った赤い花が、色を薄め、溶け込んで埋もれていくまで、高く高く。
すっかり平板な風景に、川だけが生き生きとうねって、一筋の糸のように枯れた地を山裾に縫い付ける。
この圧倒的な空間は、至りつく天を持たない。
例え一つの角度を選び取っても、円環の宇宙はどこまでもわたしを受け入れる。その際限のなさを頼って今を飛ぶ。
時もまた果てない。
伸び続ける空間と時がわたしに属し、わたしは常に中心にある。
のっぺらぼうの世界よ。そこに裂け目を刻み、今日の距離を抉り取って印をつけよう。わたしの命はわたしのものだ。
妻でなく、母でもない。ひとでなく、鳥でさえない。なにものでなくてもかまわない。
自由だ。
ため息が漏れ、相応の悲哀がこみあげてくる。
by dokkokara | 2008-06-15 16:27 | 月の輝く夜は淋しくて